森みわ氏コラム【パッシブハウス×窓】1一覧へもどる


建築家の森みわ氏は2009年より拠点をヨーロッパから日本へ移し、
日本の気候風土に合わせた建築デザインと省エネルギー性能の融合を目指して現在も幅広く活躍中です。
第1冊目の著書、”世界基準の「いい家」を建てる(PHP出版)”は発売1年目に7000部が完売となる程、
森みわ氏のヨーロッパ仕込みの省エネへのアプローチは日本の建築業界の大きな関心を集めました。
一般社団法人パッシブハウス・ジャパンの代表理事を務める森みわ氏は
日本在住で唯一の独パッシブハウス研究所の付与するパッシブハウス・デザイナーの資格を有し、
デザイナーの目線でこれからの日本の省エネ住宅のあり方についてお話いただきます。

 

【第一話】なぜ暑い?なぜ寒い

暑い・寒いの感じ方

あなたは冬の室温20度で寒いと感じるタイプですか?
あなたは夏の室温27度で熱いと感じるタイプですか?

この質問に、YESと答える人もいますし、NOと答える人もいらっしゃる。

YES/NOで答えられるはずが無い質問なんですね。 一体なぜでしょうか?
暑い寒いは部屋の温度だけでは決まりません。
あなたが今動き回っているのか、座ってじっとしているのかで上記の質問の答えは変わります。
あなたが着ている服の厚みによって、答えは変わります。
その部屋の湿度によって、上記の答えは変わります。
そしてその部屋を取り囲む壁や天井、床の表面温度(輻射)によって、上記の答えは変わります。
気流があるか、すなわち部屋の中にサーキュレーターのようなものが回っているか否かによって、上記の答えは変わります。
あなたが素足でタイルの床の上に立っているのか、それとも杉のフローリング床の上に立っているのかで上記の答えは変わります。

それくらい沢山の要素が絡み合って、私たちは今暑いとか、寒いとかを感じているのです。

快適に過ごせるかは設計者次第?

上に挙げたあなたの体感温度を左右する要素の中で、建築側が関係している要素だけを抜き出してみますと、温度と湿度、気流と熱伝達、輻射でしょうか。

これらは設計者の腕次第で改善することができるのです。

窓を適切な位置に配置すれば、夏は通風による気流感を得ることができますし、土壁など調湿出来る建材や全熱交換式の換気装置を採用することで、室内の湿度コントロールがし易くなります。

温度はどうでしょうか?
きちんと断熱気密が施された建物内は、外気の影響を受けにくく、室温の変動が穏やかです。
それでももし我慢が出来なくなってエアコンなどの冷暖房設備を付けても、室内の温度を一定に保ちやすく、消費エネルギーを大変少なく押さえることが出来ます。
床仕上げがヒヤッとしなければ、人体からの熱の移動は少なくなります。

ここまでは皆さん想像が付く事と察しますが、最後に残った輻射はどうでしょうか?

輻射とは、物体の表面温度が及ぼす人体への影響です。
簡単な例として、冬に室温24度でも窓際に行くと寒く感じる一方、室温18度でもパネルヒーターに近づくと暖かいというのは、まさに輻射と室温のせめぎ合いで体感温度が定義される証拠。

輻射が体感温度に対してどれほどの影響力かというと、一般的には皆さんの体感温度は室温と輻射温度のおよそ中間の温度になると言われています。
例を取って説明すると、室温が23度であっても、窓や外壁の表面温度の平均が15度しか無かったら、皆さんの体感温度は19℃にしかならず、やっぱり寒いわ。という事になってしまうという事です。

?室内の輻射温度は、天井や外壁、床、窓といった家を包み込む“外皮”の断熱性能で決まります。
例えば外気温が0度で、室温が20度の冬の場合を想定すると、外皮の断熱性能が高いほど、外皮の室内側の表面温度は室温20度に近づいていきます。
外壁や屋根の輻射温度を上げるには、きちんと断熱施工をすることで対応しますが、窓の輻射はどうやって改善するのでしょうか?まだまだ目にするアルミサッシに一枚ガラスという組み合わせ。
断熱性能は皆無ですね。
アルミという素材も、ガラスという素材も、熱を遮断することが不得手ですので、ガラスに関しては空気層を挟み込んで熱を逃げにくくする工夫が必要ですし、窓枠に関しては断熱に有利な素材で作る以外解決方法はありません。

ポイントは窓の断熱化!

これまでの日本のスカスカ&ペラペラな窓は住宅における省エネと健康にとって、罪悪以外の何物でもありませんでしたが、窓の断熱性能を確保してしまえば、今度は逆に窓から冬の太陽の日射を取り入れたり、風を取り込んだりという省エネ設計が可能となります。
それによって、外部空間と視覚的、空間的に繋がろうとする住まい手の欲求を満たすことも、(建築家として罪悪感を抱くこと無しに!)達成できる訳ですから、こんなに素晴らしい事はありませんね。

放射温度計で省エネ度がわかる!

外皮の表面温度を知るためには、サーモグラフィーという特殊なカメラで覗くのが一番分かり易いのですが、一般の方が買うにはまだまだ高価ですので、放射温度計がオススメです。

アマゾン等で数千円で購入できますので、是非ご購入頂きたい。
建物毎の省エネ性能の違いが良く解るだけでなく、今の暮らしの省エネ度を改善するためにも一役買ってくれるかもしれません!

これまで捉えにくかった輻射の影響が目に見えるようになり、新しい世界が広がります。




 

 



▽コラム第2回はこちら▽

森みわ氏 第2回パッシブハウス×窓