今泉太爾氏コラム【エネルギーパス×窓】4一覧へもどる
(第4回)社団法人日本エネルギーパス協会の代表理事である今泉太爾氏は、エネルギーパスを広く一般に普及し、持続可能なまちづくりを目指すことを目的に活動をしています。特に「ドイツ」の環境政策に深く精通しており、日本への普及の橋渡し役として活躍しております。
エネルギーパスとは、EU全土で義務化されている「家の燃費」を表示する証明書です。「窓」は家の燃費を考える上でかかせない、非常に重要な部分です。
このコラムは、環境先進国として注目をうけるドイツのエネルギー戦略や法制度から見えてくる日本の住宅がこれから向かうべき未来について、窓の重要性と合わせて多くの方に知っていただきたい、そんな想いをこめた企画です。
【第四回】省エネリフォームで活気づくドイツの地域経済
国土の長期展望
2011年2月に「国土の長期展望」という国土交通省が示した非常に優れた資料があります。 ご興味のある方は是非チェックしてみてください。以下のURLよりダウンロード可能です。
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kokudo03_sg_000030.html
「国土の長期展望」によると日本の総人口というのは、2050年には約9,500万人と、現在から3,000万人以上大幅に減少してしまうとさています。しかも、これはもうすでにほぼ確定しており、もし人口減少に対して対抗するのであれば、1980年代位から少子化対策をしっかり取り組んでおかなければなりませんでした。世帯数に関して核家族化が進んでいるとは言え、2015年から2020年頃から減少していくということが予想されています。 今までの日本は、新築中心の高度経済成長モデル。 高度経済成長期に日本中で住宅や道路、橋などを作り続けてきました。この今まで作ったインフラは老朽化してきますので、維持するためにはリフォームしなくてはなりません。ところが、この維持コストだけでも2030年以降は、今まで新築+維持にかけてきた予算以上にコストがかかってくるようになり、全部は維持することができなくなります。つまりこれから行われる事は、どの地域を残し、どの地域を捨てるか、を決めなくてはならないタイミングに差し掛かっています。
新築中心の高度経済成長モデル依存で増え続ける空き家
余っていく日本の住宅
日本の住宅産業は未だに新築中心の高度経済成長モデルから脱することができず、減ったとは言え、毎年約80万戸以上の住宅を新築しております。高度経済成長モデルで新築住宅を続けてきた結果として、作りすぎた住宅がどんどん余って溜まり続けています。今現在では5,000万世帯数に対してストックが5,700万戸以上、約800万戸近くの住宅が空き家になっています。住宅が余っているのに作り続けている状態というのは、前回のコラムでもお伝えした通り、ワルラス的調整状態であり、地域の資産価値は下落し続けることになります。
需給バランスをとるドイツの都市計画
一方ドイツの場合、需要と供給のバランス合わせるために、都市計画等で住宅の供給量をしっかりコントロールしています。2009年現在の世帯数4019万世帯に対して、住宅のストック数は4,018万戸。住宅は余っていません、というよりも余らないように行政によってコントロールされています。新築住宅は必要な場所だけに建設させる、つまり人口動態を確認しながら、世帯数と人口が増加している地域でのみ新築させるようにしています。 そして、その際に単純に新築の住宅数を制限するだけの政策をうってしまうと、建設雇用が激減してしまいます。そこでドイツでは新築住宅を減少させるタイミングと合わせて、リフォーム需要を上げていくような政策を同時に行っています。例えば2000年前半頃からは、新築住宅に対しては補助金や金利優遇、金利免除などの支援策はほぼ廃止されています。非常に省エネ性能が良い住宅にだけ、ほんの僅かな利子免除があるだけ。一方、リフォームの場合は補助金も利子免除も金利優遇も非常に手厚くなっています。リフォームの場合も省エネ性能が上がるほど、補助金や利子免除が増加します。しかも新築よりも、リフォームローンの方が金利も低くなっています。 このドイツの住宅政策は、古典経済学的にはマーシャル的調整というモデル。需要と供給をバランスさせることができれば、価値が安定する。つまり、世帯数と住宅ストック数のバランスをとることによって、その地域の不動産価値を安定化させているのです。価値が安定化していると、住宅の所有者は資産価値をさらに向上させるため、リフォームに対する意欲が非常に高まります。その結果、ドイツと日本の2010年度の建設投資額を比較してみると、日本よりも人数も世帯数も少ないドイツの方が、建設投資額が大きくなっています。地域の不動産価値を安定させ、同時に建設投資額を増加させるには、現在のような新築中心の高度経済成長モデルから、ドイツのようなリフォームを中心とした先進国モデルへの転換が急務となっています。
成熟化した社会構造に適合したドイツの住宅産業
キーワードは「家の燃費」
日本では新築中心の高度経済成長モデルを未だに続けており、新規建設投資額に対して新築は62%(約13.8兆円)リフォームはわずか8.4兆円、しかもこの大半が住宅ではなく、ビルなどの非住宅。こと住宅においては新築一辺倒であり、リフォームでの再投資が、ほとんどなされていないというのが如実に表れています。一方ドイツの場合、全体の約76%がリフォーム。新築投資というのはわずか24%(568億ユーロ)しありません。そして注目すべきは省エネリフォームが全体の26%(613億ユーロ)、日本円にすると約8兆円もあるということです。しかもこの省エネリフォームという市場は、ここ最近意図的に政府によって作り出されたものです。 どうしてこれだけの市場を作り出すことができたのか?それは「家の燃費」という概念がポイントとなっているのです。
省エネリフォームは光熱費の単年度建設投資
簡単に言うと、省エネリフォームというのは海外に流出していた20年分の光熱費を、ギュッと圧縮し、単年度の建設投資に変えるスキームといえます。例えば、日本の場合毎年20兆以上の化石燃料を海外から購入しています。このごく一部でも省エネリフォームに投資することができれば、例えばほんの1%2000億円を省エネ住宅に投資させることが出来れば、「1000億×20年=4兆円」の市場が作り出せます。この省エネリフォームへの投資を誘引していくという政策は、これ以上環境政策として、そして経済政策として優れたものはないと言われている大ヒット政策です。ですから、リーマンショック後にドイツ連邦政府が最初に打ち出した緊急経済対策は断熱リフォーム補助金の積み増しでした。また、住宅所有者にとっては、省エネ住宅というのは投資です。昨今のエネルギーコスト上昇の影響で、「家の燃費」を計算してみると、低金利で銀行に預けているよりも、省エネ住宅に投資した方が、圧倒的に利回りが高いのです。省エネ住宅政策とは、地域で眠らせていた個人預金を地域経済活性化に活用するすぐれたシステムなのです。
例えばドイツ経済研究所の箱研究によると1ユーロの助成金を出すと民間等で約7.1億ユーロの投資が誘引されるつまり、使った金額の8倍の経済効果を持っていると発表しています。そして助成金を100万ユーロに対して以下の効果が確認されています。
A.?GDP500?1,180万ユーロ(90%が地域の中小企業)
B.?雇用100?217人(同じく中小企業)
C.?社会福祉削減効果100?220万ユーロ(失業手当や生活保護など)
D.?税収増加88?200万ユーロ(消費税や所得税など)
国や地方自治体は税収等が投下した補助額の数倍の税収や支出削減効果がある。つまり、この省エネリフォームへの補助金は原資が無尽蔵となるので、省エネリフォーム需要がある限り、補助金は出し続けることができます。だからこそ、ドイツ連邦政府は省エネリフォーム市場を現在の毎年40万世帯から、120万世帯まで拡大し、2050年までにすべての住宅を高断熱化すると発表しています。つまり、海外に流出していた化石燃料を原資として、省エネリフォーム市場を拡大させ、現行でも約8兆円位の市場を倍以上まで拡大し、向こう30年間以上やり続けるということを明言していることになります。
日本でも同じようなことが十分実現可能です。日本の住宅というのはほとんど断熱化されていません。次世代省エネ基準という、国の推奨基準の住宅はストック数の5%に満たないとされています。つまり、5,000万戸以上の断熱リフォーム需要が存在しています。ドイツと同じ政策を日本で制度化することができれば、瞬時に200兆円もの建設需要が生まれ、向こう40年間にわたり年間10兆円以上の省エネリフォーム市場を作り続けることも可能です。その際にまず既存の住宅で最初にやるべきは、夏も冬も最も熱の出入りの多い窓。つまり、日本の既存住宅では、まず窓に内窓をつけていく、または高性能ガラスに交換していくことから始める必要があります。また、これから新築するのであれば、最低でも樹脂サッシレベルは選びたいところです。でないとある一定の時期が来たらリフォームを強制される可能性は拭い去れませんので。
▽コラム第5回はこちら▽