今泉太爾氏コラム【エネルギーパス×窓】2一覧へもどる
(第2回)社団法人日本エネルギーパス協会の代表理事である今泉太爾氏は、エネルギーパスを広く一般に普及し、持続可能なまちづくりを目指すことを目的に活動をしています。特に「ドイツ」の環境政策に深く精通しており、日本への普及の橋渡し役として活躍しております。
エネルギーパスとは、EU全土で義務化されている「家の燃費」を表示する証明書です。「窓」は家の燃費を考える上でかかせない、非常に重要な部分です。
このコラムは、環境先進国として注目をうけるドイツのエネルギー戦略や法制度から見えてくる日本の住宅がこれから向かうべき未来について、窓の重要性と合わせて多くの方に知っていただきたい、そんな想いをこめた企画です。
【第二回】エネルギーパスとは?
日本で住宅の省エネ性能向上が遅れている原因は?
日本以外の先進国では必ずと言ってよいほど、断熱の規制や厳しい義務基準が設定されています。ところが、日本だけが断熱性能に対する義務基準が設定されていない状態です。なぜ日本だけ住宅の断熱基準の義務化が進められていないのか?その原因が何なのかを探っていくと、建物の燃費というものが計算されてこなかった事が主な原因なのではないかと思うようになりました。当たり前の話ですが現状がわからないと改善のしようがありませんし、目標もたてられません。
住宅以外の商品には、家電や自動車に年間の予想燃費が明示されています。新規に購入する場合や、買い替えの際には、この表示されている予想燃費は大きな判断基準となっています。燃費が分かれば光熱費を予測することができるため、買い替え判断基準として大きな要素となります。
東日本大震災後、日本中でエネルギーが不足しており、全国的に電力料金の値上げが進んでいます。そのため多くの人々が、住宅の省エネ性能として日々支払っている光熱費がどのくらいかかるのかを気にするようになりました。住宅は生涯で最も高価な買い物にもかかわらず、基本性能である燃費が表示されていない。今思えば、これ以上不思議なことは無いのではないでしょうか。
エネルギーパスの役割と日本での必要性
前回のコラムでお伝えした通りドイツでは毎年3%近くの経済成長を続けながら、CO2排出量の削減を実現しています。そんな環境先進国ドイツにおける建築物に関する省エネ対策には大きく2つの政策があります。
1つ目は新築の分野に関しては2020年度以降CO2をほぼ排出しない、化石燃料にほとんど依存しないという住宅以外は新築できないようになります。しかしながら新築がCO2を排出しなくなっただけでは、2050年度95%削減には全く足りません。
2つ目は、約4,000万戸ある既存住宅の省エネ化の促進。既存住宅の省エネリフォームが必須となります。年間3%約年間120万戸ずつ改修し、2050年までに全ての住宅への省エネリフォームを完了させようとしています。
成熟した先進国の最大のテーマは「既存住宅の省エネ化」をいかに促進させるかといえます。そして既存住宅の省エネ化のために作られたのが「家の燃費」という概念、すなわち「エネルギーパス」なのです。
不動産価値基準としての家の燃費
日本ではまだ意識されていない「家の燃費」ですが、ヨーロッパでは「エネルギーパス」が義務付けられており、家を借りたり、購入する際、その家で1年間暮らす場合に必要な冷暖房エネルギーと給湯エネルギーが表示されているので、そこから年間の光熱費を予測することが出来るので家を選ぶ上で大きな判断基準となっています。そのため、燃費の悪い家は、賃料がその分安かったり、販売価格が安かったりします。住まい手は、賃料だけでなく光熱費までトータルして住まいに対しての支払額を考えることが出来るため、より自分に合った住宅を手にすることが当たり前に出来る社会になっています。
たとえば、地球環境保護に貢献したいと考えている人は、ちょっと位賃料が高くても、できるだけCO2排出量の少ない住宅を選ぶことが出来、住宅にかける費用をできるだけ抑えたいと考えている人は、賃料だけでなく燃費も考慮してトータルで最も安価な家を選ぶ事が出来ます。
当然、大家さんや売主さんは、できるだけ高く貸したり売却したりしたいため、居住者が重要視している「家の燃費」を出来るだけ向上させようと、日々研究してリフォームしているので、低燃費な家が数多く増えています。
日本においても同様であり、新築だけではなく現在5,760万戸存在する既存住宅をいかに省エネ化していくかが、これからの最大のテーマであると言えます。住宅産業に携わる私たちは、新築のゼロエネ化を早々に実現し、出来るだけ早く既存住宅の省エネ化へと軸足を移していく必要があります。
▽コラム第3回はこちら▽